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コミュニティ探訪 ~ マチとつながるアパートメント「H&A Apartment」 前編:賃貸アパートでDIYマルシェ開催

久留米の賃貸アパートでDIYマルシェ

8月某日、福岡県久留米市櫛原町(くしわらまち)にある集合住宅「H&A Apartment」で開催されたDIYマルシェへ行ってきました。この日の気温は35度近くにも昇る猛暑日でしたが、アパートの敷地では疲れを知らないこどもたちが元気に走り回り、無邪気な笑い声が周囲に響いて、どことなく古き良き時代の懐かしさを感じるような夏休みの光景をみることができました。
水道管でつくった水鉄砲で遊ぶこどもたち。作り方を教えるのはこのアパートにかかわっている職人チーム「BASE」のメンバーたちです。

まちの人々の交差点、半田ビル

H&A Apartmentは、半田啓祐さんと満さん二人の兄弟が管理運営する久留米市東櫛原町に位置する賃貸アパートで、半田兄弟の両親が所有する「半田ビル(1981年築9戸)」と「アベニール櫛原(2003年築6戸)」2棟からなる集合住宅です。
H&A Apartmentの2棟のうちの「半田ビル」。1F店舗に入居しているパン屋さん「iruaru」がテレビで紹介されたばかりということで、この日は朝から行列ができていました

マチとつながるアパートメント

半田兄弟はこれまでも定期的にこちらのアパートでイベントを開催してきました。DIYコンテンツを中心に住民参加型のワークショップを企画したり、近隣の公共施設で催されるイベントと日程を合わせて双方との回遊を促したりするなど、エリア全体がにぎわうように工夫をこらしています。
また、こだわりをもつ飲食事業者の店舗をアパート1Fに誘致して、入居者と地域住民が交差する場所をつくったりもしています。店舗前にある広々としたウッドデッキは築古アパートのレトロな景観を際立たせいました。このウッドデッキのあるスペース、以前はアパートの駐車場だったそうですが、現在はここを憩いの場にすることによってさまざまなシーンが生み出されています。
アパートでDIYが開催されたこの日は、歩いて10分ほどの久留米中央公園にオープンしたばかりの「KURU MERU」でもイベントが催されていました。

1F店舗に入居する「半畳コーヒー」。店主さんはジャズが流れる喫茶店が好きでコーヒーの世界にいざなわれたそうです。

アパート向かい側の住宅の敷地にはキッチンカーがきていました。
あまおうイチゴのスムージーを販売するのは生産者でもある長尾農園さん。共通の知人の紹介で繋がり、生産者でありながらも加工・販売までを自らおこない、6次産業にも取り組む長尾さんをアパートのイベントに誘ったのがきっかけで、その後農園の活動は発展拡大、今年3月からは「あまおう農家のキッチンカー」の稼働へとつながりました。現在は農業の合間を縫って各地のイベントへの出店や移動販売をおこなっているそうです。
向かいの民家の敷地にキッチンカーが出店していました。アパートと近隣とのよい関係性がわかります

長尾農園の長尾さん親子。お客さんたちと楽しそうに会話していました

多世代入居者×DIYコンテンツでつくるコミュニティ

アパートの入居者は、単身者、子育て世帯、高齢者と属性も世代も幅広く多様な人たちです。そして一般入居者に加えて「BASE」という職人チームがコミュニティにかかわることで、イベント企画や地域連携が円滑におこなわれているようでした。
BASEとは久留米市江戸屋敷「コーポ江戸屋敷」にある職人たちのシェアオフィス。担い手不足や業種間での横のつながりづくりなど、職人業界が抱える課題を職人たちみずからが解決する場としてスタートしました。現在は11の業界(大工・電気・造園・設計・デザイン・盆栽など)に及ぶフレンドリーな職人たちが利用しています

アパートの運営管理を担う半田満さんの本業は設計。「BASE 」のメンバーの一人でもあり、拠点をおくコーポ江戸屋敷は半田兄弟がコミュニティ運営にかかわるもうひとつの拠点でもあります。

転載:くるぐらハッコウ所 H&A Apartmentとコーポ江戸屋敷は半径約5キロの範囲に位置しています。

職人・デザイナーによるワークショップ

今回取材したDIYコーナーでは水道設備屋さんが水鉄砲づくり、造園屋さんが苔玉づくり、デザイナーさんが椅子づくりでイベントに参加。こどもたちにとっては職人から直接技術をならえる貴重な体験となるだろうし、職人たちにとってもこのようなイベントに参加することが自分たちの仕事を広く知ってもらい、地域の人との交流機会にもなっているようです。

水鉄砲ワークショップにはこどもたちが多数参加
造園屋さんによる苔玉ワークショップ。大人もこどもも一緒に楽しめます
デザイナーさんによる椅子づくり。こどもたちにとってもよい夏休みの体験になりそう。

入居者の自主性を尊重する管理運営、コミュニティの受容力

H&A Apartment のコミュニティデザインの原点ともいえる家庭菜園はルールがほとんどありません。利用者は自分の好きな植物や野菜を育てていいし、菜園の手入れも各自がマイペースにおこなっているそう。そして、その横では2年前に入居者の小学生が飼い始めたチャボたちがイベントの様子を見守っていました。

集合住宅の共用スペースで生き物を飼育しているときいて、正直おどろいてしまいました。家庭菜園くらいはよくみられることですが、生き物、しかもチャボとなると早朝に「コケコッコー」と鳴くだろうし、動物が苦手な入居者もいるはず。大家さんにとっては飼育を禁止する理由はいくつもあったのではないでしょうか。

チャボ飼育の発起人、小学3年生の鈴吾郎(りんごろう)君に話を聞くと、チャボを飼いたいとおもったのはお母さんが「にわとりを飼ってみたいな」といったからだそうです。チャボを飼い始めてからはきちんと世話をし、今ではチャボの数も増えてたまごを生むようになりました。

「ダメ」をなるべく言わないようにしている、と半田啓祐さんは話します。当初は懸念もあったようですが、飼い始めてみると早朝の鳴き声も近隣住民たちは昔を懐かしむ気持ちで受け入れてくれ、動物が苦手な入居者も「怖いけど、なんか可愛いい」と見守っているようでした。鈴吾郎君のやさしさをきちんと受け止めて応援する判断をした半田さんは、管理者と入居者というよりは一人の人間として入居者と向き合っているのだと思いました。

チャボたちはこの日は小屋の中でおとなしくしていました。
アパートの向かいの民家の中のサロン「くつろぎのいえ」での和やかなシーン。半田啓祐さんとアパートに住む小学生の鈴吾郎君はまるで仲のいい親戚のように見えました

信頼できるコミュニティがもたらす安心感。

8月の猛暑のなか1日かけてアパート界隈の人・モノ・コトを取材しました。イベントが開催されていたこの日はH&A Apartment にとっては「非日常」のエネルギーの高さはあったのかもしれません。けれどもこの日出会ったアパート周辺の人々の屈託のない笑顔や自然体のことばの裏に、ここで暮らしていることの安心感と、半田兄弟に対する絶大な信頼を感じました。それらは時間をかけて丁寧に醸成された感覚であり、半田啓祐さん、満さん自身の温かく寛大な人柄によってゆるやかに“開発”されてきた土台の上に成り立っているように思えました。

アパートのこどもたちと近所のサロンのオーナー徳永さん(写真左)とアパートのウッドデッキで。徳永さんと半田さんとは徳永さんが以前飼っていた愛犬を通じて親睦を深めました。徳永さんは、5年前にその愛犬が亡くなったときにアパートのこどもたちと一緒に看取ったという心温まるエピソードも話してくれました。


イベントの取材を終えて、管理者という立場である半田さんたちが、彼らの方から入居者や近隣住民へ歩み寄る姿勢をとても大切にしていることがわかりました。私は彼らが地道な行動をブレることなく何年も継続していける理由を知りたくなりました。後編では半田兄弟がアパート運営とコミュニティデザインをライフワークとするまでのストーリーを聞いてみたいと思います。

写真・テキスト/野上梓

後編はこちら

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