思考する生活 Life of Thinking 第十四回目 鉄板焼き屋で飲み会をする人たち

リモートワークが続く昨今、久々に外仕事が続いた某日にふらりと、たまに行く街の鉄板料理屋に入った。
そこは決して銀座、六本木にあるような高級店ではなく店内に鉄板台が3台所狭しと置いてあり、マスター1人が切り盛りしているところである。
この店、メインは鉄板料理なのであるが10月の半ばを過ぎると鉄板台の横におでんが登場する。このおでんを突きながら鉄板料理を食べるのがおつであるのだ。
時間の頃は20時過ぎであった。

3台あるうちの2台が既に埋まっていた。
1台は30代半ばと思しきラフな格好の男性22人がおでんを摘んでいた。
漏れ聞く話に耳を立てるとどうやら2人ともウェブ関連の仕事をしているようだ、

ラフな服装とは逆に仕事の話を真剣にしていた。
彼らはいわゆるミレニアル世代である。ミレニアル世代の特徴は夢や理想を追い求め転職に対してもポジティブに考える世代である。
プレゼンテーションのスキルの話しや最新のデジタルデザインに関して熱く語っており、2人とも会社の同僚であるようだが、2人とも将来は独立して起業を目指しているようであった。

社会人になり10年ほどが経ち、次の人生のステップに向かって意気揚々と歩んでいる2人の会話を聴いていると、日本の未来も捨てたものではないと思えてきた。
私が一杯めに頼んだ瓶ビールが空になる頃に彼らは店を出て行った。
帰り際にマスターと談笑をしていたので常連さんであることが伺えた。

もう1台の鉄板台を囲んで40代半ばから50代半ばまでと思われる会社の同僚と上司と思わしき中年男性5人が飲み会をしていた。
20時すぎの時点で彼らはかなり出来上がっていたのでおそらく6時ぐらいから飲んでいたのであろう。
話の流れから彼らは研修もしくは社員総会の帰りのようである。
コロナ前は街中でよく見られた、帰りに一杯のよくある風景である。
会話の内容がなんとも、なんだかなぁ、、なのだ。

まずは女子社員の見定めの話しである。
会話の詳細をここで具体的に書くと公序良俗に反するというか**ハラスメントな会話だらけであるので流石にここでは筆を走らせるのを止めることとする。
巷ではダイバーシティー&インクルージョンが声高に叫ばれているが、この鉄板屋においてはそのかけらもないのであった。

次の会話は接待や出張にまつわる話である。
接待に関しても夜の怪しいお店の話しばかりであり、これも文章に起こすことは憚れるので割愛する事としたい。
なお、その会社の社長および役員は毎回、豪勢な接待を展開しているようである。
この事に関しての不満は誰からも出なかった。

なぜ、不満が出なかったかというと、偉くなると豪勢な接待が出来ることを若手社員に示すことで彼らに夢とロマンを与える効果があるそうなのだ。(と、おじさん中年社員たちは真剣に考えているのである)
若手社員はこんな行動にロマンなど抱くのであろうか?
むしろ逆ではなかろうか?

そして出張のはなし。
どうやらこの会社は東南アジアへの出張が多いらしいのだ。
役員と出張に行くとビジネスクラスに乗れてマイルがたくさん貯まるので海外出張は役員を出来だけ同行するようにしているらしいのだ。
また、役員が先に述べたように豪勢な接待をするのでそのおこぼれにも預かることが出来るので一挙両得だそうである。

この5人は皆、おそらく上級管理職である。
つまり会社の中枢を担っている人たちなのだ。
これらの話は決してフィクションではないのだ。21世紀の令和の時代のリアルな会話なのだ。

懇談の最中にある人の携帯が鳴った、彼はスマホを耳に当てたまま店の外に出た。
そして5分ほどして戻ってきた。
どうやら何人かの部下を束ねている中堅管理職の部下から電車が止まったので部下をタクシーで帰宅をしても良いだろうか?という相談であったそうなのだ。
彼は許可したそうなのであるが、他の4人にむかって「そんなこと、自分の判断で決めるべきですよねぇ、主体性がないよなぁ」と愚痴をこぼしたのであった。

それに対して他の4人は今どきの30代は本当に主体性に欠けている、という意見で一致をしたのであった。

さて、ここからは私の邪推であるのだがもし断りなくタクシーで部下たちが帰宅したら
この上司はすんなりと首を縦に振ったであろうか?私はそうは思わない。
だからこそ、部下は相談したのではないか?

その後、そのうちの1人が「我々も電車が止まっているのでもう1軒行きますか?」
と発言をして皆が同意をし女性が接待をしてくれる店探しのミーティングが始まったのである。
彼らはとても楽しそうであった。

さて、現在世界は混迷を極めている。
出口が見えそうで見えないコロナ渦、ロシアとウクライナの戦争、そして円安。
いつ何が起こってもおかしくない世の中なのだ。

しかし彼らには全く関係ないのである。
おそらく定年まで波風経たないように淡々と、しかも出来る限り甘い汁を吸って生き延びようとしているのだ。
彼らは時代の波に飲まれることなど全くないと思っているのだ。

真剣に将来の話をしていた30代とは全く異星人のようである。
いや、もしかするとこの地球内に異星があるのやもしれない
それか、40歳を超えると違う生き物に多くの人は変体を施すのかもしれない。

私はおでんを突きながら、彼らの会社がある日突然、外資に売り渡されたことを妄想してみた。彼らの中で天地がひっくり返るのは言うまでもない。

そんなことが起こる訳もない、とは思えないのがこのご時世である。

私は彼らの会話を反面教師に手綱を引き締めたのであった。

PS:彼らは会計の際にきっちりと領収書をもらっていたのであった。
経費で落とすんかい、、(苦笑)

増村岳史

アート・アンド・ロジック株式会社  代表取締役
増村 岳史 / Masumura Takeshi
大学卒業後、株式会社リクルート入社。マーケティング、営業を経て映画、音楽の製作および出版事業を経験。
リクルート退社後、音楽配信事業に携わったのち、テレビ局や出版社とのコンテンツ事業の共同開発に従事する。2015年アートと人々との間の垣根を越えるべく、誰もが驚異的に短期間で絵が描けるART&LOGIC(アートアンドロジック)を立ち上げ、現在に至る。著書に『ビジネスの限界はアートで超えろ! 』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)『東京藝大美術学部 究極の思考』(クロスメディア・パブリッシング)がある。

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