思考する生活 Life of Thinking 第六回目 九州男児の気質。東京女子の気質。
こちらのコラムの読者の大半の方々は九州在住、それも福岡、なかでも博多在住の
方々が多いのではなかろうか?
何を隠そう、私は九州と東京のハーフである。
父は肥国、熊本出身であり、母は東京の出身である。
私は東京の世田谷区という場所で産声を上げ小学校の高学年から神奈川県の藤沢市というところに引っ越し、現在は生まれ故郷の世田谷区に住んでいる。
小学生の頃は夏休みのたびに父の実家である熊本に輸送されていた。
なぜ、輸送という表現を使ったのかというと好む、好まないにかかわらず毎年夏休みになると父の実家に預けられたのだ。今思うとうるさい小学生のガキが1ヶ月以上家で騒がれるよりも、私の存在の最も大きなニーズがあり、かつ自力で帰って来れない祖父祖母の元に送り込まれたのである。
(私の記憶の限りでは母方の家には宿泊した経験がなくいつも日帰りであった。ま、東京なのであたりまえか)
私は毎年の夏休みに九州男児に囲まれて過ごした。
今思うと絵に描いたような九州男児ばかりであった。
祖父は元旧日本帝国海軍の職業軍人であり熊本の小さな町の町会議員をしていた。
質実剛健を絵に描いたような人であった。
熊本に行く度に祖父から戦争時代の武勇伝を聞かされた。
また親戚や近所のおじさん達も皆、体格がよく筋骨隆々であった。多くの人が武道、柔道や剣道をしていた記憶がある。
皆、毎晩のように酒盛りをしていた。酒盛りが続き宴たけなわになると祖父は酩酊し必ずと言っていいほどグーグーとイビキを立てて寝込んでしまうのであった。
そう、私の九州男児像は皆、質実剛健で武道をしており大酒飲みで豪快なひと、なのであった。
それから時が過ぎ、博多のとある会社と仕事をする機会が巡ってきた。
従業員たちは皆、地元福岡県の人たちで社長は博多っ子であった。
それまで九州イコール、質実剛健であった私のイメージがやや変わった。
質実剛健プラスお洒落、これが私の福岡のイメージである。その中でも博多は九州一の都会であり博多っ子はシティーボーイなのである。ちなみに博多弁でかっこつけていることを「ツヤつけとる」というそうなのだ。
この表現に私はポマードでオールバックに固めたタモリのいでたちを思い出した。
もちろん、この九州男児像は勝手な私の経験によるものであろうからかなりのバイアスがかかっていると思うがおおよそのところ、世間の九州男児のイメージとはかけ離れていないように思われるが如何であろうか?
さて、冒頭で述べたとおり私の母親は東京の23区内の西のほうである中野区の出身である。私の記憶を辿ると、母方の家はサザエさん的な雰囲気であったように思う。
主人公のサザエさんと年の離れた弟のカツオはややファンキーなキャラクターであるがその他の登場人物であるマスオさん、フネさん等々は日常を淡々と過ごしている印象ではなかろうか。
(ちなみにサザエさんのモデルになった街は東京都世田谷区の桜新町という東京城南エリアの下町である、今でこそ世田谷区そのものに下町のイメージはないかもしれないがサザエさんの舞台である1960-70年台の世田谷区は下町のそれであった)
サザエさんとカツオのファンキーさも音楽で例えるならハードなロックやパンクなどよりもやや軽快なポップミュージックに近いような気がする。
私の幼少の頃の大きな疑問は、なぜ熊本(九州)の人たちは毎日がお祭りのように常にアクティブなのに(実際の熊本の夏祭りは大変アクティブであった)東京の親戚はいつも淡々としているのだろうか?ということであった。
その謎が最近、自分なりに解けてきたのだ。
それはある一連の映画作品シリーズを観た事に端を発する。
その映画とは「かもめ食堂」である。当時スマッシュヒットをしたので観た人も多いと思うが、主人公を演ずる女優の小林聡美がフィンランドのヘルシンキで食堂を営む日常を淡々と描いたストーリーである。共演者は片桐はいり、もたいまさこ、であった。
こちらがヒットしたからであると思うが、次作は沖縄の孤島を舞台にした「めがね」であった。
こちらも主人公の小林聡美、共演者の”もたいまさこ”に加え市川美日子と男優陣には三石研と加瀬亮が加わった。この作品も沖縄の孤島にある食堂の宿兼、食堂の日常を淡々と描くものであった。
この「めがね」の出演陣で「マザーウォーター」「プール」など4作品ほどが展開された。
どの作品にも共通するのは淡々とした日常を丁寧に描く世界観である。
私はつい最近、この映画群の女性キャストの共通点に気づいたのである。
それは皆が東京のしかも23区内の出身であったのだ。
小林聡美(葛飾区)もたいまさこ(中野区)片桐はいり(大田区)市川実日子(大田区)
改めてこのメンバーをイメージすると、時にはきゃっきゃ(・・・・・)した役も演じる人もいるが(市川実日子)多くは淡々とした役を演じることが多いではないか。
もし、実写版のサザエさんがこの令和の時代に復活したとしたら(参考までに実写版サザエさんは過去に5回実写化されている)上記のメンバーでの配役はとてもしっくりとイメージが出来るであろう。
そうなのだ、東京の女子たちは基本、淡々としているのだ。
この件に関して異論がある方ももちろんいるかもしれないし、事実私の周りの東京女子の中にも淡々とはかけ離れている人もいる、が、しかし、サザエさん的&小林聡美とそのお仲間女子的な淡々(たんたん)感は東京独自なノリであろう。
ちなみにこの女子達が出演する映画シリーズの男子レギュラーである俳優の光石研は紛れもない福岡県の出身であり
デビュー作は”博多っ子純情”なのである。
彼の出演によって映画がキリッと締まるのだ。
つまり映像にツヤがつくのである。
九州と東京のコラボはもしかすると最強のタッグなのかもしれない。
増村岳史
アート・アンド・ロジック株式会社 代表取締役
増村 岳史 / Masumura Takeshi
大学卒業後、株式会社リクルート入社。マーケティング、営業を経て映画、音楽の製作および出版事業を経験。
リクルート退社後、音楽配信事業に携わったのち、テレビ局や出版社とのコンテンツ事業の共同開発に従事する。2015年アートと人々との間の垣根を越えるべく、誰もが驚異的に短期間で絵が描けるART&LOGIC(アートアンドロジック)を立ち上げ、現在に至る。著書に『ビジネスの限界はアートで超えろ! 』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)『東京藝大美術学部 究極の思考』(クロスメディア・パブリッシング)がある。
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