思考する生活 Life of Thinking 第十一回目 理念経営の意味するものとは?

今回のタイトル、大きく振りかぶっているのであるがこのテーマで書こうと思った事の発端があるのだ。

それは今からちょうど3週間前ぐらいの出来事であった。
2日ほど前に近所のスーパーで購入したプライベートブランドの豆腐のパッケージを開けようとしたところ、水がズブズブと垂れてきたのであった。
誰がどう見ても不良品である。
ここは単にポイすれば済む話ではあったのだが、食品会社の知人、友人が何人かいるわたしとしては彼らから消費者の声はとても貴重で参考になるという話を聞いていたので商品改善の参考になれば、と思いスーパーに電話をした。

電話に出たのはパートと思われる中年女子らしき声であった。
状況を話すと「どうすればよいでしょうか?」という答えがいの一番で返ってきた。
私は「あのー、この電話不良商品に関してのクレームなんですけど、、」とやや声高に話しても「交換したいという事でしょうか?」との事えが買ってきたので私はこの方では問題の本質を理解されないと思い「この件に関して詳しい人に代わっていただけますか?」と自分の感情を出来るだけ抑えて電話口の女性に話した。
すると、待つこと1分間後に店長が出てきた。
開口一番、「では交換をさせて頂きますので、いつ取りに来れますか?」であった。
私はこの対応に堪忍袋の緒が切れてしまった。

かなり感情的になってしまっていたのでどのようなセリフを話したかは定かではないが要旨としては以下のとおりであった(ような気がする)

・まずは何はともあれ不良商品を売ってしまったので謝るのが先であろう
・にもかかわらず、どうすればよいでしょうか?との指示待ち発言をするのは一体どういう教育をしているのだ!!?

・しかも店長たるものが開口一番、不良商品を売りつけておいて、一言も謝りもせずに、、
取りに来い、というのはなんだか理解ができかねる、、
・私は不良品を渡して今後の商品開発の参考になればと思い、好意で連絡をしたのに本意を一切察しずに、その発言は客の事を微塵も考えてないのではないか!とにかく、商品を取りに来てください!

以上、であった。

そして店長が来るのを家で待った。

その間、同じスーパーで不良品を購入した時のことが蘇ってきた。
それは10年以上前のことであった。

確か果物を購入したのだが、その果物自体の何個かが腐っていたのだ。
私はスーパーに電話を入れると開口一番「大変申し訳ございません」という声が電話口から届いた。
(おそらく最初に電話に出たのはパートの女性であった)
その後、すぐに店長を名乗るものが出てきて「今からすぐに伺
いますので、、」という声とともに本当に今すぐ(体感時間3分弱ほど)に現れた。
彼(店長)は私が購入した量の2倍ほどの量の果物を持って現れた。
なんだか、私が恐縮してしまったのであった、と同時にこの店のファンになったのだった。

さて、同じ店(スーパー)なのになぜこんなに対応が違うのであろうか?
店長が変わるとこんなにも対応が変わるのであろうか?

実はこのスーパー、暖簾(店名)は昔から変わらないのであるが数年前に某巨大スーパーチェーンの傘下となったのである。(業界用語ではGMS<ゼネラルマーチャンダイズストア>と呼ばれている)
その前は某大手百貨店系列であった。

ちなみに某巨大スーパーチェーンの傘下になってから変わった事がいくつかあった。

まずは商品ラインナップが大きく変わった。それまではヨーロッパや日本の老舗食品会社のやや値が張るが値段を裏切らない食材が2割ほどあったのだがこれらが全てコストパフォーマンスに優れた(要するに安い商品)プライベートブランド商品(業界ではPB商品と呼ばれている)にすり替わったのだ。

次に店の雰囲気がガラリと変わった。
それまでは店員同士が和気藹々としていたのだが(いたように私には感じられたという方が正しい)資本が変わったらピンと張り詰めた空気が店を覆うようになった。
また、商品の陳列が以前よりも味気なくなってしまった感があった。
以前は店員の手書きポップが店のあちこちに掲出されていた。

そして何よりも大きく変わったのは命令口調で指示を与えている鬼軍曹のような人が現れた事であった。

ビニール袋を下げて私の目の前に現れたのは、まさに鬼軍曹の彼であった。

私は感情的になってしまい、以下のことを述べた(ような気がする)
・資本と経営が変わると客を単なる購買する“人”としか見なくなるんですね
・店長というもは会社の代表なのだから今回の態度で**(大手スーパーの名前)に対する信用が大きく下がりました。
・最初に電話口に出たアルバイトの女性を決して叱らないでください。

店長は深々と何回も頭を下げ、私は代わりの商品を受け取った。

最近、理念経営、もしくはパーパス経営という言葉をよく耳にする。
意味としては、
会社の存在意義を明確化し、社会に与える価値を示すパーパスを軸にして企業活動を行い、社会に対して貢献していくことだそうなのだ。

この店は大手スーパーチェーン傘下になった途端に理念が消えてしまったのではないか?

これと同じような事がつい先日もあった。
私が住む3km範囲内に2つの図書館がある。
ある図書館(これをAとしよう)は近所の本好きと思われるパートの女性が数人働いている。
もう一つの図書館(これをBとする)は外部から委託されている会社が運営をしている。
Aで本を探し迷っていると必ずといっていいほどパートの女性が声をかけてくれる。
Bで声をかけてもらったことは一才なく、いつも極めて効率的な事務対応がなされる。
A図書館はB図書館よりも明らかに自宅から遠いが、自然とA図書館に向かうことが多い。

これは公共サービスなので理念やパーパスで語ってしまうのはいささかお門違いな気もするが、皆さんはどう思われるであろうか?

何はともあれ組織も個人も理念って大事なのだ。

増村岳史

アート・アンド・ロジック株式会社  代表取締役
増村 岳史 / Masumura Takeshi
大学卒業後、株式会社リクルート入社。マーケティング、営業を経て映画、音楽の製作および出版事業を経験。
リクルート退社後、音楽配信事業に携わったのち、テレビ局や出版社とのコンテンツ事業の共同開発に従事する。2015年アートと人々との間の垣根を越えるべく、誰もが驚異的に短期間で絵が描けるART&LOGIC(アートアンドロジック)を立ち上げ、現在に至る。著書に『ビジネスの限界はアートで超えろ! 』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)『東京藝大美術学部 究極の思考』(クロスメディア・パブリッシング)がある。

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