思考する生活 Life of Thinking 第二十一回目 あなたの稲穂は頭を垂れるほど実ってますか
自身の自発的な創造的活動の対価としてそれが一円でもお金をもらえばそれはプロであると私は思う。
今までわたしは決して生業にはなり得ていないが自身のバンド活動、そして楽曲制作で僅かながらであるがギャラを頂いてきた。
この意味では私自身も吹けば飛ぶような超末席のプロである。
こんなわたくしめの創造的成果物に財布の紐を緩めお金を頂戴するのは感謝の極みである。わたしのコンテンツに対価を支払って頂いた方々には深く感謝の意を述べたい。
改めて考えてみるに私が頂いたギャラの数万倍の額を私はクリエイター、アーティスト、エンターティナー、の作品や演奏に支払ってきた。
もちろん損をしたことなど一度もない。
わたしのアーティストとしてのプロデビューは意外にも早かった。
その分、引退も早かったのであるが、、
なんと私は小学校6年生の時に自分で描いた絵を売っていたのだ。
6年生ともなると性への目覚めがはじまりエロへの扉を多くの男子は開こうと躍起になるのだ。
知識の源は少年マンガである、当時は山上たつひこの「がきデカ」や永井豪の「キューティーハニー」が教科書であった。また、当時絶大な人気を誇っていたテレビ番組、ドリフターズの「8時だよ全員集合」(古い!)でも際どい表現があった。(今にして思うとエロくも何ともないのであるが、、)
しかしながら少年マンガやドリフの番組にはヌード表現は皆無であった。
性に目覚めた少年たちは日々、ヌードがどういうものなのかを妄想し悶々としていたのである。
私の父は画家であった。当時親のアトリエは東京の自由が丘というところにあり、たびたび訪れていた。
アトリエにはヌードデッサンが常にアトリエの壁に貼られていた。
とある日にアトリエを訪れた際に、このヌードデッサンを模写して友達に見せたらクラスのヒーローになれるのでは!と思い、ノートに描き写した。
翌日に横の席に座っているA君に見せたところ、偉く感動された。
この絵をA君に私があげたところ大層、A君は喜んで下校途中にある駄菓子屋でガムとアメを奢ってくれた。
商才たくましいA君は私が絵を描いて、彼が売る提案をした。(ちなみにA
君の家は某有名企業の創業一族であった。さすが起業家ファミリーの一員である)
それから私は父親のアトリエを訪れるたびにノートにヌードデッサンを描き写しまくった。それをA君がクラスの男子たちに売価10円で売りまくったのである。
つまり私とA君は画家と画商の関係になったのだ。
しかしこのビジネスはそう長くは続かなかった。なぜならクラスの女子がこのビジネスを担任の先生にチクったのだ。
私とA君はこっぴどく叱られ、画業は1ヶ月で引退することになったのだ。
その時のことはお金儲けよりもクラスの男子たちが喜んでくれたのが印象深く記憶に残っている。
このことを先日プロのアーティストたちに話したら爆笑してくれた。
だいぶ前に私がジャズギターを演奏していることを記したと思う。
ジャズギターを始めて3年目の私はこの世界ではひよっこである。
修行の真っ最中、である。
去年、世界的に有名なジャズピアニスト上原ひろみのライブに2回も行けた。
チケットが発売される毎にものの5分で売り切れてしまうチケットを2度も入手出来たのだ。
ラッキーこの上ない。
1回目のライブは立ち見席であったが、私の横がちょうど楽屋への導線上にあった。アンコールが終わって楽屋に戻る際にたまたま目があったので、ありがとうございました、ライブ最高でした。と思わず声をかけたところ、わざわざ立ち止まって、こちらこそお越しいただきありがとうございました、と声をかけてくれた。
グラミー賞受賞者のアーティストに声をかけて頂いた私はますますファンになってしまった。
まさに“実るほど頭を垂れる稲穂かな”を実践しているお方なのだ。
その翌日にジャズギターの修行で某ライブハウスのジャズセッションに参加した。
ここで簡単にジャズセッションの説明をすると、ライブハウスにはホストプロなる人たちが居て(多くは若手の駆け出し中のプロである)来場者はそれぞれの楽器を持ち寄りセッション参加料金を支払い、一緒に演奏をしてもらう参加型の音楽イベントである。
ホストプロの構成はドラマー、ベーシスト、ピアニストの3名のパターンが最も多く、この3人が参加するアマチュアの楽器に合わせて出たり入ったりするのだ。
この日のホストミュージシャンはピアノが30代半ば、ベーシストとドラマーが30代そこそこであるように見受けられた。
私が参加した回はピアノとベースはホストプロが入り、ドラマーとギターの私がアマチュアであった。
皆の多くが一部の常連客を除いてはじめましての間柄である。
私はやや緊張気味にこの曲を演奏したいのですが、とジャズスタンダードの曲を申し出た。
私が楽譜を出して譜面台に載せるとホストミュージシャンは譜面台に何も置かずに、さぁ始めましょうか?と合いの手を入れてきた。
プロのジャズミュージシャンの凄いところはおそらく2〜300曲が頭の中に入っているのだ。
ちなみに譜面を用意しても私が現時点でほぼ間違いなく演奏が出来て、そこそこのアドリブができるのは両手に満たない。
緊張のあまり、曲が始まるやいなや冒頭のテーマを間違えてしまった(私レベルでは日常茶飯事である)しかしながら途中で持ち直して何とか最後まで演奏する事が出来た。
演奏が終わって私の横でベースを弾いていたホストプロにありがとうございました、と声をかけるとヘラヘラと笑いながら、どぉーもぉ、と白い目で返された。
緊張が解け、席に戻ると奥の方の席から大声で話をしているキンキンした女性の声が耳に入った。
その女性はホストプロのドラマーであった。
他人のましてや下手なアマチュアの演奏など彼女にとってはどうでも良いのだ。
その時、私はグラミー賞に輝いた上原ひろみの「こちらこそお越しいただきありがとうございました」が脳内で響き渡った。
おそらくホストミュージシャンの人たちは絶対に一度は上原ひろみの音色を耳にしているはずである。
最後に一言。
“実るほど頭を垂れる稲穂かな”
増村岳史
アート・アンド・ロジック株式会社 代表取締役
増村 岳史 / Masumura Takeshi
大学卒業後、株式会社リクルート入社。マーケティング、営業を経て映画、音楽の製作および出版事業を経験。
リクルート退社後、音楽配信事業に携わったのち、テレビ局や出版社とのコンテンツ事業の共同開発に従事する。2015年アートと人々との間の垣根を越えるべく、誰もが驚異的に短期間で絵が描けるART&LOGIC(アートアンドロジック)を立ち上げ、現在に至る。著書に『ビジネスの限界はアートで超えろ! 』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)『東京藝大美術学部 究極の思考』(クロスメディア・パブリッシング)がある。
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