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コミュニティ探訪 ~ マチとつながるアパートメント「H&A Apartment」~ 後編:半田兄弟インタビュー

前編ではH&A Apartment で開催されたDIYマルシェのレポートを紹介しました。今回は賃貸アパート運営をつうじて、人とマチがつながるさまざまな仕掛けをつくっている「半田兄弟」こと半田啓祐さんと半田満さんにインタビューしました。H&A Apartmentがもつ安定感と安心感はいったいどこから生まれているのか、その理由を紐解いてみたいと思います。いまコミュニティづくりに携わっている人にとっても参考になるインタビューになったと思います。

写真左から半田満さん(弟)、半田啓祐さん(兄)

H&A Apartmentとは ~ 半田兄弟それぞれの転機、そしてUターン。

―― 今日はとてもあたたかい雰囲気のイベント風景をみせてもらいました。私たちもこれからコレクティブハウスを作ろうとしていますが、コミュニティデザインをやろうとしたときに、運営側の立場の人たちのバックボーンや考え方についてもっと知りたいと思いました。まずはH&A Apartmentの歴史について話してもらえますか。

半田満さん(以下:満さん):半田ビルは父が建てたビルで僕たちはこのあたりの土地で生まれ育ちました。大きくなってからは二人とも進学や就職などで関東の方にいってしまったので特にビルの管理にはかかわることがなかったのですが、兄が先にUターンして現状をみてみると、この建物にはいろんな問題が発生していました。その後、自分も戻ってきてDIYなどやりはじめたのが運営にかかわりだしたきっかけです。
半田満さん

半田啓祐さん(以下:啓祐さん):このアパートは以前は母と祖母とで自主管理をしていました。昔は建物も新しいし何もしなくても入居者が入ってきてくれて、部屋もそれほど手を加えなくてもよかったのですが、僕が戻ってきた頃は手のかからなかった管理もだんだんと立ち行かなくなってきていて問題がいくつも積み重なっていた時期でした。

――おふたりとも社会人になった頃はそれぞれ全く別の目的やイメージをもっていたのですね。

啓祐さん:実家が不動産管理をしていたのに、僕は最初の就職のときは不動産業界にあまり良いイメージをもっていなくてどちらかというと敬遠していたので、大学卒業後は関東の外食産業につとめていました。社会人になったころは「給料って何なんだろう?」とよく考えていました。サラリーマンの給料というのはつまるところ、車を買ったり、結婚して子育てしたり、家を買ったりする資金として与えられていて、僕たちはそうやって人生をコントロールされているんだなって。関東で働いていたときにふと疑問に思ったことがその後のUターンへつながっている気がします。
福岡に戻ってきて転職活動をしていた頃は、半田ビルのとなりのアパートの新築工事がはじまっていました。新しいアパートの方はローンや保証金などで自分にも何か影響があるかもしれないと思い工事の様子は数か月間ずっと見守っていました。そしたらアパートの完成後に建設会社と管理を委託していた会社が両方とも倒産したんです。そのときに不動産建設業界の危うさを知って、また数十年後に同じことが起こらないようにするためにと勉強のつもりで不動産業界へ転職しました。一方で、古いアパート(半田ビル)の方は放置した状態で空室が埋まらず、入居者の質も低下して母が疲弊していたのでそれをどうにかしたくてDIYで内装をきれいにしたり壁を塗ったりしはじめました。
半田啓祐さん

逆境からあらたな価値を見出した

――その状況だったとしたら、当時はかなりモチベーションがひくかったのではないですか。

啓祐さん:そうですね。家族の事情に巻き込まれてしまった感じでしたし、僕が抱いている危機感を両親に話しても「大丈夫、大丈夫」って全く理解されませんでした。だけど、この状態を放置していたらいつか自分にも降りかかってくるなと思いながらも、曾祖母たちの時代から受け継いできた土地で自分たちも生まれ育った場所なので、そこにあるのが当たり前だった建物を売却するという考えはまったくありませんでした。それをしてしまうと自分たちの過去の思い出が全部消えてしまう気がして。人生の喪失というか。

満さん自分たちが育ってきた場所だっていうのは大きいよね。昔からそこの駅前(西鉄櫛原駅)でよく遊んでいたし。

――そこからDIYやリノベーションを勉強しはじめたわけですね。

満さん:僕は大学から建築を学んでいて、不動産開発系の会社に勤務していました。それをやっていると建築物の企画はできるようになったけど、開発の仕事ってお金と建築以外のことについてはあまり考えられていなくて。そこには何となく違和感を抱いていたので次は運営や不動産管理の仕事をやろうと思って転職活動をはじめていました。まさにちょうどそのころうちの兄(啓祐さん)が半田ビルの管理をはじめていたのでそれを手伝うことにしました。

――では、不動産管理とコミュニティデザインをビジネスとしてやるようになってからの話をきかせてください。アパートの入居者さんたちはみなさん10年近くの長期で入居していて、これからも住み続けたいといっています。半田兄弟との信頼関係によるものだと思いましたが、安心して帰属できるコミュニティと人とのつながり、それをつくりだすことが不動産の付加価値になると当時から思っていましたか。

満さん:それはまったくなかったですね。僕らは半田ビルの問題が一区切りした段階でそれぞれ別のところへ行こうとしていたんです。アパートの敷地内に家庭菜園をつくったことで、入居者間交流が促進されて、会話や人間関係の構築などが生まれていましたが、そのことも当時はたいして注目していませんでした。転職活動をしていたときに東京の企業からあなたたちはあたらしい手法をやっているから、地元で続けた方がいいんじゃないかといわれ、初めて自分たちがしていることが評価されていることを知りました。そこからはじめてこれをビジネスにしていこうと思い本格的に勉強をしはじめました。

――不動産管理とコミュニティデザインを事業化し、現在は法人化して活動されていますが、お二人の今後の展望は?

満さん:久留米は櫛原、江戸屋敷など特色のちがうエリアが点在しています。それらのエリアで僕たちが積み重ねてきたことを実践していって、おもしろいエリアを久留米の中に点々と増やしていきたいですね。行政とも連携しあいながら。

啓祐さん:コミュニティデザイン事業に関しては管理運営委託をうけた物件で実験をかさねて、徐々に体系化されてほかの物件でも導入できるくらいの経験値もたまってきましたしね。

満さん:今回のDIYワークショップには各業種の職人が参加してくれて、こどもたちと一緒に工作などをおこないました。その体験がこどもたちの将来にちょっとでも影響を与えることに価値を感じています。このような企画もつづけていきたいですね。

満さん:半田ビルがあるからこのエリアに住みたいという人が増えればそれをきっかけに不動産仲介をしたりしていけば地域全体の活性化に貢献できる。そういうことも将来的にはやっていきたいです。それにともなって周辺の空き家も連動させていきたいですね。

人と地域をつなげるために

――よいコミュニティが生まれやすい地域について質問です。外部から来た人と街とをつなげるために何が必要だとおもいますか。

啓祐さん:その地域に人が安心・安全に暮らしていける風土がしっかりと根付いている場所がいいですね。それができるまではとても時間がかかりますが。その地域全体に安心と安全が根付いていれば、外から移住者がはいってきたとしても、地元の人がオープンに接することができるので、その上にいろいろのっけたとしても自然と人が動いてつながっていきます。

満さん:しいて言うなら地域に信頼されている人が間にはいることですね。双方をきちんと理解できる人がいるとつながりと広がりが加速すると思う。アパート入居者は地域をよくしたいと思って入居してくるわけではないので、地域に根付いていてまちをよくしたいと思っている人がいることは重要です。僕たちはコーポ江戸屋敷でもコミュニティデザインをやってみて、時間はかかっても継続していけば外部から移住してきた人でも地元とのつながりはつくれることがわかりました。あとは、例えば半田ビルのウッドデッキとベンチのような物質的な仕掛けも人があつまる場とシーンを作るうえでは効果的ですよ。

啓祐さん:半田ビルのウッドデッキを設置したあとは、1Fに店舗を誘致しました。テナントとはイベントで出会ったり口コミからつながりをつくったりして誘致しましたが、入居者とちがってテナントはカテゴリーや事業者の取り組み内容などをしっかりと審査して入居してもらいました。自分たちとしては1F店舗がチャレンジショップみたいな感じになるといいなと思っています。

満さん:最近では管理側の僕たちとテナント側で食事会をしながら今後の営業展開についても話し合ったりしていますよ。せっかくなら僕たちと一緒に何かをやれるテナントさんに来てほしいと思っています。

iruaru(ベーカリー)

DISC SPICE(カレー店)
半畳コーヒー

ゆるやかな繋がりのあるコミュニティの心地よさ

――コミュニティデザインの基本として、ターゲット層をあらかじめ決めておいてその人たちを惹きつけるような空間デザインを施して、デザイン力や行動力のある人をそこの中心的ポジションに配置するという手法をとりますが、H&A Apartmentの場づくりにおいてはそういった戦略的仕掛けがほとんど施されていないように見えました。それはなぜでしょうか

啓祐さん:そのほうが場の形成に時間はかかるけど、長続きするんですよ。

満さん:僕たちも以前はずっと「コミュニティを育てる」という言い方をしていました。でもコーポ江戸屋敷を含めて2拠点のコミュニティデザインをやってみて、自分たちがつくっているのはコミュニティより一歩手前の、もっとゆるい感じのものだよねというのが今の僕たちの共通認識になっています。何か目的をもってどこかへ行こうとしないということを、暮らしと人のつながりづくりにおいては重要視しています。方向性はあえて定めていません。

啓祐さん:その中で生じた課題が解決できなかった場合は人を配置する必要があるかもしれませんが、生活者たちは日常の中でなんとなくやりくりして解決しているから、むしろ特殊な能力のある人をおかなくてもいいのかなと思っています。

――なるほど。半田さんたちの場づくりの考え方がよくわかりました。最後に、半田兄弟が“ともに暮らしたい”と思う人はどんな人ですか? 掲載サイトが「ともに暮らす.com」なのでインタビューした人みんなにおたずねしているんです。

満さん“機嫌のいい人”ですかね。僕たちがかかわっている『Chietsuku(チエツク)プロジェクト』では、自分たちの地域サイズを大切にして、穏やかな暮らしを続けることを大切にしています。たとえば今日のDIYマルシェみたいに、それほど作りこまれてもいない、のんびりとしたイベント企画を楽しんでくれる人。盛り上がりのあるフェス的な企画でなかったとしても、それを否定しない人というか。久留米にはそういう感じの朗らかな人が多い気がします(笑)

〈 取材後記 〉
複数の分野で企業活動をしていて常に多忙である半田兄弟が、アパート入居者たちと一人の個人として向き合いながら地道に構築してきた信頼関係は、このアパートと周辺地域の安心と安全を保持する重要な要素であり、それを具現化することにはかなりの労力を必要とすることは明らかです。それを楽しみながらやれているのは、何といっても彼ら自身がこの地域を愛し、未来世代へも受け継いでいきたいとつよく願っているからこそだと言えるでしょう。よい地域にはよい人間関係があり、そこから地域への愛情が育まれる。当たり前のように聞こえますが現代社会ではすでにそれが失われているといえるのかもしれない、だからこそそれをつくれる人や行動に価値がつけられています。これからの時代ではより一層必要とされてくるだろうと思いました。

写真/テキスト 野上梓

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