思考する生活 Life of Thinking 第十二回目 金の切れ目が縁の切れ目、とAIとヒト
私は仕事柄、講演とワークショップをすることが多い。
3年目を迎えているコロナ渦中の昨今、その多くはリモート(オンライン)にて実施している。
今まで(コロナ渦になるまでは)100%リアルな場で実施をしていたので、オンラインで始めた頃は試行錯誤を繰り返す日々であった。
しかし人間の適応能力とは凄いもので今やリアルイベントの方が慣れない場となってしまった感さえあるのだ。
このオンラインでの実施には大きく2つのパターンがある。私自身の居場所(自分自身のオフィスや自宅)から実施をするパターンと講演・ワークショップ主催者側のスタジオから配信するパターンである。
どちらが私自身にとってやり易いかは時と場合によりけりだ。自身のオフィスや自宅で実施する場合はいわゆるホームゲームであり勝手知ったるものなので比較的リラックスして取り込める。また比較的人数が多い場合などは主催者側のスタジオで実施をすると必ずアシスタントをしてくれる方がいてくれるのでとても助かる。
この2つの大きな違いは主催者側のスタジオで実施するとほぼ“はじめまして”の方がアシスタントとしてついてくれる。
アシスタントの方も2つのタイプがいる。一つ目のタイプは主催者スタジオ専任の社員の方である、つまりこの方はコロナ渦になって新たに誕生した(であろう)配信スタジオ部署所属の人である。コロナ渦3年目の現在、これら専任社員の方々はベテランの域に達していることであろう。
配信スタジオの多くは自社の会議室をほぼDIY(手作り)で改造したものであり、涙ぐましい努力の結晶でもある事をここに付け加えておく。
そして2つ目は主催者からアウトソーシングを受けた会社から派遣されるアシスタントの方である。
このアウトソースを受けた会社も目の付け所が鋭い、というか商機をつかむセンスがある。まるでダーウィンの進化論で語られている“生き残るものは強いものではなく、常に環境に適応し変化できるものである”を実践しているのだ、流石というしか言葉が出ない。
さて、この2つのタイプのアシスタントの方々には大きな違いがある。
1つ目の自社スタジオの方は“わたしが、オレが立ち上げた”感を持つ、この仕事に大きなプライドを持っていることが伝わってくる。
2つ目のアウトソース先から派遣された方はクライアントからのミッション(任された仕事、仕事の課題)そして、アウトソース先の上司からの指示を忠実に完遂しようという意気込みが感じられる。
この場で正直に独白をしてしまうのであるが、私自身、仕事が終わってからの爽快感があるのは多くは1つ目の自社スタジオの専任者タイプの方々との仕事である。
2つ目のパターンのアウトソース先から派遣された方々に対しては毎回、毎回“お仕事ご苦労様です”と労いの言葉を(僭越ながら)かけてあげたいと常に感じる。
なぜこんなにもマインドが変わるのか?の説明をしたいと思う(こちらが今回の本題でもある)
端的に言うと、講演&ワークショップをしている私は、2つ目のアウトソースをされている会社にとってクライアントではないからである。
もっと正直に述べると、私はアウトソース先の会社にとってお金の成る木ではないのだ。
この事を強く感じたエピソードを述べる。
とある日の派遣されたアシスタントの方(以下Aさんと呼ぶ)は、今までのどの方よりもよく気づく方であった。
講演が始まり5分ほど経過後に、私はいつもワークショップで必ず使うあるものを事前に用意するのをうっかり忘れてしまっていることに気づいたのだ。
私はアシスタントの方にメモで筆談をし、そのあるものの手配をお願いした。
アシスタントの方はメモを受け取ると直ぐに手配されたそれを持ってきてくれた。
そしてしばらくしてオンラインでの講演ワークショップが無事、終了した。
私はAさんに御礼を言った。
このAさん、終始きびきびと色々なことに対処をして頂き、ましてや私の無理なお願いにも嫌な顔を一つもせずに答えてくれた。
今まで同じアシスタントの方が二度、ついて頂いたことはないのだが、この方はこの先も着いて頂きたいほど私にとってはありがたい方であった。
そして数日が過ぎたある日のことである。
先日の主催者から1通のメールが来たのだ。
内容は、アシスタントに、ものの手配を今後はしないで頂きたいというものであった。
私はそのメールの一文に不快感を覚えた。
おそらく、アウトソースを実施している会社はアウトソース先の会社から派遣された社員にレポートを課しているのであろう。
イレギュラーな事象があった場合は必ず記入させる。
そして派遣元の会社の上司はレポートに基づいてクライアントに報告し、私は主催者側よりフィードバックを受ける。
私がアシスタントの方にお願いしたことは契約外のことなのであろう。
ビジネス イズ ビジネス である。
アウトソース先の会社から見れば、私も主催者側から依頼を受けた1業者であり決して彼らにとってのお客さまではない。
もっと端的に言うと商流が発生しない、つまりお金のやり取りがないので気など使う必要など一切ないのである。
であるから、契約以外の事を要求された場合は講演主催者であるクライアントにクレームを入れるのは当然の行為なのだ。
これは極めてビジネス上では理にかなっているし効率的な行為である。
もし、アシスタントがAIロボットであれば、私は不快感を覚えることは決してなかったであろう。
結果だけがログとして扱われ、判断されるのであれば、私はAIを大歓迎する。
アシスタントのAさんの本音が聞きたいものであるが、アシスタントの方は毎回変わるので、おそらく会うことはないであろう。
面倒な気分にならないためにも早くAIロボットが現れてほしいものである。
ちなみに冒頭で述べた配信スタジオを主催する社員の方がアシスタントに入った場合で
このようなクレームを頂いたことは一切ない。
金の切れ目が縁の切れ目ではない仕事のほうが後味は爽快である。
増村岳史
アート・アンド・ロジック株式会社 代表取締役
増村 岳史 / Masumura Takeshi
大学卒業後、株式会社リクルート入社。マーケティング、営業を経て映画、音楽の製作および出版事業を経験。
リクルート退社後、音楽配信事業に携わったのち、テレビ局や出版社とのコンテンツ事業の共同開発に従事する。2015年アートと人々との間の垣根を越えるべく、誰もが驚異的に短期間で絵が描けるART&LOGIC(アートアンドロジック)を立ち上げ、現在に至る。著書に『ビジネスの限界はアートで超えろ! 』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)『東京藝大美術学部 究極の思考』(クロスメディア・パブリッシング)がある。
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