思考する生活 Life of Thinking 第十二回目 傾聴すること

ここ数ヶ月の間にお会いした複数人のビジネスパーソンから傾聴、つまり相手の話をきちんと聞く事がとても大切である旨の話をお聞きした。
冷静に考えてみると多くのビジネスマン、ならずともほとんどの人は人の話を聞くことよりも自分の話をしたがる人がなんと多いことか。

ご多分に漏れず私もその多くの中の一人である。
コロナ禍になって気づいたら早3年が経とうとしている現在は以前より傾聴するどころか、より自分の話を聞いてもらいたい人が増えているのではなかろうか。
コロナ初年度である2020年、そして2年目の2021年は数回の緊急事態宣言があり外出もままならない状況でごく限られた人たち、例えば家族や勤務先の人々、取引先の人々などごくごく限られた人々とリモートという仮想空間でのコミュニケーションがほとんどであった。よって話を聞いてもらいたい指数(勝手に私が命名)は頂点に達していることであろう。しかも人の話をじっくりと聞くこと、つまり傾聴は相当な忍耐力を兼ね備えなければならないのだ。

さて閑話休題、休日にYouTubeをザッピングしていたらユーミンこと松任谷由実さんの旦那で編曲家(アレンジャー)音楽プロデューサー、そしてキーボードプレイヤーの松任谷正隆さんの対談コンテンツが流れてきた。

松任谷正隆さんは本業の音楽家の他に自動車評論家、ラジオパーソナリティ、エッセイイストなどいくつもの顔をもつ多彩な人である。

YouTubeの対談番組は小中の同級生でチェリストの阿部雅士氏との同級生対談であった。

内容はと言うと、二人とも小学校から大学まで一貫教育をする私立の名門校の同級生だそうで、小学校の時に器楽クラブに二人とも入っていて松任谷さんの指揮で阿部さんは子どもオーケストラでチェロを演奏していたそうなのだ。

その後、松任谷さんは付属の高校、大学とエスカレター式に進学をしたのだが一方の阿部さんは両親がクラシックの音楽家という家庭環境からか、一時期はチェロを辞めて松任谷さんと同じように高校、大学とエスカレーターに乗ろうと思ったものの、東京藝大の付属高校へと進学し東京藝大の音楽学部へと進学をした。ここで注記であるが東京藝大の付属高校は付属校と名乗ってはいるもののエスカレーター式には進学出来ないので受験をして進学をしたのだ。

卒業から数年を経て二人は音楽スタジオで偶然の再会をしたのであった。その時に松任谷さんは「なんでお前がここにいるの?」とつい口に出たのであった。その理由は松任谷さんが思うに阿部さんはクラシック音楽のエリートして藝大を卒業し、日本の有名オーケストラの楽団員として活躍しているとばかりに思っていたのがポピュラーミュージックのレコーディングの現場でチェロを弾いていたのにびっくりしたそうなのだ。

一方の阿部さんはユーミンのレコーディングや編曲家(アレンジャー)として日本のポピュラーミュージック界では名が知れていたのでビックリはしなかったそうで、いつかどこかで出会う事があるかもしれないと思っていたそうなのだ。

なぜ阿部さんがクラシック音楽の道に進まずにポピュラーミュージックの道に進んだかの理由は楽団員として決められた道に行くよりも、藝大生の時にアルバイトで演奏したスタジオミュージシャンの仕事の方が、常に1回の仕事毎に自分の腕が試される方が肌に合っていたそうでこの道を選んだそうなのだ。

それから同級生ならではの昔話や思い出話に花が咲くとても興味深い対談番組であった。
対談番組ながら、常に話を引っ張っていっていたのは松任谷さんであった。

とにかく松任谷さんの傾聴力が凄いのである。

対談相手の阿部さんに心から寄り添い話を聞いている姿勢に私は感銘を受けたのだ。

松任谷さんはさまざまな顔を持つ多彩な人ではあるが、皆もご存知のとおりメインの仕事は音楽プロデューサーであり編曲家である。特に奥さんであるユーミンこと松任谷由実との二人三脚の数々の曲を耳にしたことがない人はいないであろう。

音楽プロデューサー、そして編曲家の仕事は縁の下の力持ちである。
主役はあくまでアーティストである。アーティストの作った作品をより良くし世の中に出すのが生業だ。

もちろん、音楽産業の仕事なので売れなければならないし、常に売れることが求められるシビアな仕事である。
実は私は何を隠そう一時期、エンタテイメントの仕事をしていた時がある。もちろんミュージシャンではなく縁の下の力もちサイドの仕事であった。
アーティストが音楽を世に出すためにはさまざまな人が関わる、その中でもプロデューサーはプロジェクトを統括するリーダーであり責任者である。

プロデューサーはアーティストに寄り添うことは当然の事ながら、曲が売れるために宣伝計画を立てたり、予算計画を立てたり、曲が色々なところで流れるようにするための営業活動も行う。

プロデューサーと言うと音楽制作をしてはい終了、と思う人が多いかもしれないが、
上記のように仕事は多岐にわたるのだ。

松任谷さんが多彩であるのもさまざまな事に目を見張っているので常にアンテナが高いからなのかもしれない。
ちなみに残念ながら私は松任谷さんとはお会いをしたことも無いしましてやお仕事をご一緒したこともない。
しかしながら先の対談番組で私が感銘を受けたスゴい傾聴力が松任谷さんが松任谷正隆さんたる所以なのではなかろうか。

さて、話を冒頭の話題に戻そう。
私はここ数ヶ月の間に複数人のビジネスパーソンから傾聴、つまり相手の話をきちんと聞く事がとても大切である旨の話を聞いたのであった。

世の中にはトークがとてもうまい人々が沢山いる。特にYouTubeがテレビ、ラジオといった以前のマスメディアと同じぐらいの一大メディアになった今、さまざまな語り手の人たちの番組コンテンツを目に耳にする機会が多い。

皆が知らない世界のことを知っている人、世相を鋭く斬る人、難しいことを誰もがわかりやすいように解説する人、
これらの人たちは我々にさまざまな知識を提供してくれる。

しかしながら、いざ日々の仕事の場面に目を向けると自身の話をするのももちろん大切であるが、実はそれよりも大切な事はまずは何よりも相手に寄り添って話をきっちりと聴く事のほうが重要だ。

世の中にはさまざまな問題、課題が山積みとなっている。
そして地球上のさまざまな人々が問題や課題を抱えている。
問題の核心を発見したり、課題の本質を捉えるためにまずは、それぞれが何を、どう思っているのかを捉えなければならない。

そのための第一歩は傾聴から始まるのである。
私は松任谷正隆さんの対談から強く感じたのであった。

増村岳史

アート・アンド・ロジック株式会社  代表取締役
増村 岳史 / Masumura Takeshi
大学卒業後、株式会社リクルート入社。マーケティング、営業を経て映画、音楽の製作および出版事業を経験。
リクルート退社後、音楽配信事業に携わったのち、テレビ局や出版社とのコンテンツ事業の共同開発に従事する。2015年アートと人々との間の垣根を越えるべく、誰もが驚異的に短期間で絵が描けるART&LOGIC(アートアンドロジック)を立ち上げ、現在に至る。著書に『ビジネスの限界はアートで超えろ! 』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)『東京藝大美術学部 究極の思考』(クロスメディア・パブリッシング)がある。

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