津屋崎まちあるきレポート

起業家たちが共に暮らす「コレクティブハウス」を創るプロジェクト

「ともに暮らすコミュニティ」は、コレクティブハウス=共創生活に興味のある方が集まり、ディスカッションや見学を行う、コミュニティ活動です。
コレクティブハウス?という方はこちらのページをご覧ください。

今回は、福岡県福津市津屋崎の候補物件を見学に行きました。物件見学よりも先にまちあるきから始まった今回のツアー。家探しのときに真っ先に考える「駅から〇分」、「間取り」、「建物の構造」だけにこだわらず、建物周辺地域の「歴史や文化」、その家に込められた大家さんの「思い」、という視点で地域をみつめることからはじめてみました。そうすることで見えてきた豊かさや温もりが、結果としてプロジェクトメンバーにあらたな気づきを与えることになりました。「ともに暮らす.com」編集部の野上がまちあるきの様子をレポートします。

福津市 宮地浜海水浴場ビーチクリーン

6月になったばかりだというのに、すでに夏の空気がただよう6月4日の午後、メンバーたちはJR福間駅にあつまっていました。
この日は物件見学の前に宮地浜海水浴場のビーチクリーンに参加。海に流れ着いたちいさなプラスチックのかけらを拾い集め、可愛いアクセサリーをつくって楽しみました。ビーチクリーン主催者である一般社団法人くらげれんごうの山崎さんは、海洋汚染の絶望的な状況について触れつつも、自分たちは視座を変えることで砂浜のプラスチック片を拾い集める活動を、まるで宝探しのように楽しみながらやっている。そこから自分たちと世界とのつながりが見えてくるのだと明るく話していたのが印象的でした。

暮らしの問屋店主 古橋さん

暮らしの問屋店主/古橋範朗さん

そんな時間をすごして外の気温が少しやわらいできた頃、車で5分ほどのところにある津屋崎千軒民俗館藍の家へ向かいました。次の目的は、現在進行中の起業家コレクティブハウスの候補物件を見学することでした。物件を案内してくれたのは、福津市、津屋崎に移住したい人のために、まちの空き家を紹介している「暮らしの問屋」店主、古橋範朗さんです。
京都出身の古橋さんは2013年に東京都国分寺から津屋崎へ移住してきました。まちへ移り住んだ理由は奥様との結婚がきっかけだったそうですが、過去のインタビュー記事の中に、古橋さんが津屋崎のまちで生業をつくり生きていくことを選んだ理由が書かれていました。

街の人が津屋崎を好きだというのがいいなって。そういう人がいれば良い方向に変わっていく。ここがまだそこまで大きな色に染まっていないとも感じて、街をつくる側の一員として、自分も加わりたいと思いました。

2013.05.31 non-standard World,Inc 特集「優しく生きる」 より

東京では西国分寺にある「住む×働く×お店×コモンスペース」をコンセプトにした集合住宅、マージュ西国分寺で暮らした経験もあり、その暮らしのなかで古橋さん自身の中にも何かを表現したい、発信したいという気持ちが芽生えていたそうです

津屋崎には「生きているだけで素晴らしい」という考えがベースとして自然にある。「仕事を対価をもらえるというのとは別に、暮らしの中でギフトの交換ができている感じがする。人間が本来もっている優しさ。」

候補物件である築94年の古民家

津屋崎まちあるき

今回見学させてもらう物件は、古橋さんが移住後に立ち上げた「暮らしの問屋」で紹介されていました。物件は昭和2年に建てられた築94年の古民家です。集合住宅ではありませんが8DKの間取りで145㎡もの広さがあります。この物件が空き家になり、解体されて宅地開発事業の対象になるところでしたが、古橋さんは何とかして次の住み手を探したいと思ったそうです。
諸事情あってその日は物件の内部を見学することができなくなり、プロジェクトチームは急きょ古橋さんのガイドつきでまちあるきへと繰り出すことに。結果としてそれはチームにとってとてもいい影響を与えることになりました。
こちらの白壁、町家づくりの建物はこのあたりの原風景ともいえる建造物です。かつてはその価値が認められず、まち全体がこの風情ある建物や通りを失いかけたこともあったそうです。それを食い止め新しい価値づけをして今日まで景観とともにこのまちのいとなみを継続させてきたのは、外部から来た移住者たちの力も大きかったようです。
津屋崎のまちの風土、仲間たちが結婚式をあげた神社、移住者によって活力を吹きこまれ再生した古民家の数々、地域でこどもたちを見守る場、まちの人たちと一緒に朝ご飯をたべるコミュニティスペースなど、人と地域がつながるたくさんのスポットをひとつひとつ丁寧に紹介してもらいながら、夕暮れ時の津屋崎のまちを歩きました。
東京からのUターン家族がいとなむゲストハウス兼コミュニティスペース「みんなの縁側王丸屋」。経営者は動画を作成してまちの情報を発信するなど、地域のPRに一役かっています。
学童「放課後クラブ」。地域の人たちが自主的に運営しています。中にいたこどもたちはとても気さくに私たちに話しかけてきてくれました。

津屋崎ブランチと一般社団法人まち家族

最後に立ち寄ったコミュニティ喫茶「ケとハレ」では偶然にもまちおこし団体、津屋崎ブランチ代表の山口覚さんと会い、話をきくことができました。まちづくりに興味のある人にとっては同団体については知っている人も多いかと思いますが、ブランチでの活動を経て2019年に設立した一般社団法人「まち家族」の活動内容はとても興味深かったです。

こちらの「ケとハレ」では定期的に朝ごはん会が開催されています。「まち家族」の活動では若者が高齢者から味噌や漬物の作り方などをおそわって、日本の伝統的な食材を自分たちの手で作っています。朝ご飯会ではそれらの食材でつくった一品を各自が持ち寄ってくるそうです。「知っている」だけじゃなく、「経験して」、「できるようになる」ことをとてもたいせつにしていると山口さんは話していました。
自分でつくったら、誰かに食べてもらいたくなる。おじいちゃんも、おばあちゃんも、こどもたちも、海外から来た人もみんながあつまってみんなで食べる時間は確実に地域の「縦糸」を紡ぎ、日々の営みという「横糸」と織りあわさることによって文化となり、次世代にうけつがれていくのだろうと思いました。

“ともに暮らす”とは

津屋崎のまちを歩いてみて、「ともに暮らす」とはどういうことだろうと改めて考えました。ひとつ屋根の下に多様な人々が集い、お互いの個性を尊重しながら生活する。それはもちろん素敵なことだけれど、うちの中だけそうだったら幸せなのか?といえばそうではないだろうと。
人間は住む場所の影響によって精神がつくられることもあるし、地域や社会で自分を活かすことで人とのつながりがうまれ、まわりに対する愛情が育まれていくもの。
私たちの目指す「孤独のない世界を創る」ために、「地域」や「まち」がどう在ろうとしているのかは欠かせない要素なのだということに気づくことができました。まちあるきから始まった今回の物件さがしは、そういう意味でとても有意義だったし、プロジェクトメンバーにとっても地域の見方が変わる貴重な体験になったのではないかと思います。

文:野上梓

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